岡山県倉敷市下津井に建つ「デイサービスしおかぜ台場」。下津井は瀬戸内海へ突き出した鷲羽山に近い古くからの要所で、かつては金比羅参りの玄関口や漁港としても栄えたところだ。当施設の土地には明治中期に「金波楼」という料亭が建てられており、近年焼失するまで地域のシンボル的存在だったという。
そこで、焼失をまぬがれた金波楼の石垣をそのまま用い、外観はモダンな要素を取り込みながら、デイサービスしおかぜ台場にはかつての料亭のような木造で瓦葺きの勾配屋根が重なるデザインが採用された。
石垣の斜路をのぼってアプローチへ出ると、送迎車両を2台並べられる切り妻屋根の車寄せが現れる。玄関を入ると、瀬戸内の穏やかな海をいっぱいに取り込む大きな窓が並び、海を眺めながらくつろげる食堂エリア、休憩コーナー、フィットネスエリアが広がる。午前午後でそれぞれ定員を20名、3時間制として介護保険を適用する体制としたことで、一般的な高齢者施設の食堂とは違い、ゆとりのあるカフェやレストランのような様相が実現した。
食堂エリア、休憩コーナー、フィットネスエリアの大空間には、柱が3本だけ存在していて、これは構造的理由のほかに、和モダンの意匠を印象づけ、玄関ホールとくつろぐスペースを段階的に仕切る役割も担っている。SE構法は、中・大規模な木造建造物を建設できる利便性と、和風建築に息づく空間全体を地続きにやわらかくとらえる精神性を体現できる。