「松華堂菓子店」は、宮城県宮城郡松島町に建つ土産物屋、菓子店とその工場、カフェ、住宅からなる3階建ての複合建築である。周辺は観光地であり瑞巌寺の門前町だ。
創業は、確認できるもっとも古いチラシにちなんで1911年としている。現在は5代目の千葉伸一さんがカステラを主力商品に据えて事業を展開している。
竣工は2010年。立て直しに際して千葉さんは2つのことを考えた。一つ目は創業当時の伝統的な建築群がつくり出していた家並みに敬意を表し、松島の美しい景観に調和する木造建築とすること。二つ目は千葉さんの宮城県沖地震の体験から、地震に強い建物とすることである。
木造建築の意匠は、近代建築の巨匠であるミース・ファン・デル・ローエが設計した「ファンズワース邸」のようなシンプルで合理的な空間を目指した。1階は土産物屋なので観光客が入りやすい透明性のある店構えにし、白い漆喰塗りの壁を立てて背景としている。2階のカフェからは松島の美しい景観を望める開放的な空間とした。
建物が竣工して約半年後、松華堂菓子店が創業100年目にあたる2011年、東日本大震災が発生した。津波の影響で漂流物が当たってガラスが破損してしまったが、構造物の変形やダメージはなく、地震の揺れには負けなかったとえる。これは、設計を担当した工務店にとっても感慨深い出来事となった。
松島は今でも復興の途中にある。松華堂菓子店は名物のお菓子と絶景を提供し、地域の活性化を担っている。