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2025.04.19お客様の声

【特別対談コラム】建築環境設計と経営戦略の交差点 ~タイコーアーキテクトの挑戦~

【特別対談コラム】

■テーマ:建築環境設計と経営戦略の交差点 ~タイコーアーキテクトの挑戦~

インタビュアー:株式会社エヌ・シー・エヌ 執行役員 環境設計部長 前田 哲史

登壇者:株式会社タイコーアーキテクト 代表取締役社長 羽柴 仁九郎 氏

    株式会社タイコーアーキテクト 設計 一級建築士 前田 良 氏

 

+++++ 対談コラム +++++

前田(哲):

 本日はオンライン勉強会でも大変ご好評をいただいたお二人に、改めてお話を伺えるということで、非常に楽しみにしています。本日皆様にご紹介したいのは、全国約14,000社が競うリクシルメンバーズコンテスト2024」にて準グランプリを受賞されたタイコーアーキテクト様の「巣の家」の設計手法とプレゼンテーションです。このような名誉ある賞を受賞された工務店様から、今回は直接お話を伺えるということで、非常に光栄です。本日は、どうぞよろしくお願いいたします。

前田(哲):

ではまず、タイコーアーキテクト様の現在の事業状況と、今回の勉強会でご紹介いただいた経営戦略について、改めて教えていただけますか?

羽柴社長:

 ありがとうございます。私たちは大阪の東部、東大阪市を拠点に分譲住宅と注文住宅をバランスよく展開してきました。今後はより高付加価値の注文住宅に注力する方針で、年に2区画ほどの高級建売も続けながら、全体としては年間30棟程度の住宅供給を目指しています。

前田(哲):

 分譲をベースにされていた会社が注文住宅へシフトされるというのは、大きな転換ですね。経営戦略として、どのような考えが背景にあるのでしょうか?

羽柴社長:

 最大の理由は「顧客接点の質」にあります。注文住宅では一人ひとりのお客様との対話が深くなり、提案の幅も広がります。そして何より、私たちが提供できる価値=設計や暮らし提案の深度が大きくなる。この転換を支えてくれたのが、エヌ・シー・エヌさんとの出会いです。

前田(哲):

 ありがとうございます(笑)。


前田(哲):

 実際、弊社の支援内容(構造設計から温熱環境解析まで)をどのように経営に取り入れておられるのか、聞かせていただけますか?

羽柴社長:

 まさに「パッシブデザインを経営戦略の中核に据える」という考え方です。パッシブ設計って、普通は設計の一部の話だと思われがちですが、私たちはそれを「サービス」に昇華させたいと考えています。商品ではなく、体験や価値として届ける。エリアの市場性、顧客属性を見極めて、どこでどう売るのかという“地域戦略”とも強く結びついています。

前田(哲):

 そのあたり、勉強会でも「寿司屋の例え」がとても分かりやすかったですね(笑)。

羽柴社長:

 ありがとうございます(笑)。お客様の目的は「寿司を食べたい」=「快適で安全な家に住みたい」こと。出張寿司職人が素材を吟味して、客の目の前で握るように、私たちも土地や環境、家族の暮らし方に合わせた最適な提案を“その場”で組み立てていく。パッシブデザインの設計スキルだけでは足りなくて、それを伝える力、信頼を築く力が必要なんです。

前田(哲):

 では、その“握りの技術”とも言える設計について、前田(良)さんにもお話を伺いたいです。リクシルのメンバーズコンテストで準グランプリを受賞された事例は、どのようなプロセスで設計されたのですか?

前田(良):

 はい。今回は大阪府吹田市の傾斜地に建てた家でした。40代後半のご夫婦が、犬との生活や老後の快適性を考えて、自然の多いエリアで建築を希望されました。敷地は北東側に広がる緑地が魅力だったのですが、南側の日照をどう確保するかがポイントでした。

 

前田(哲):

 なるほど、北東に開けた敷地はパッシブ的には難しい面もありますよね。

前田(良):

 はい、そこで私たちは日照シミュレーションを行い、時間帯ごとの光の動きを可視化して、南東・南西の開口部に最大限光を取り込む設計をしました。また、SE構法だからこそできた開放的な間取りも大きかったです。

前田(哲):

 具体的にはどのような工夫が?

前田(良):

 例えばLDKの配置です。南東・南西に向けて開口を設け、リビングから緑地が望めるように北側にも窓を計画しました。高低差のある敷地だったので、玄関までのアプローチには植栽を配置し、森の中を歩くような感覚を演出しました。


前田(哲):

 審査員からも「暮らしのストーリーと空間が結びついている」と高く評価されていましたね。

前田(良):

 はい。構造や温熱、インテリアすべてが“暮らし方”から逆算されて組み立てられている、という部分が評価されたと思っています。

羽柴社長:

 このプロジェクトでは、お客様との対話を重ねて、「冬場に無暖房で20度を目指す」などの目標を共有しました。断熱・気密性能だけでなく、室温シミュレーションで設計根拠を示すことで、信頼感を築けたと思います。

前田(哲):

 それは弊社としても非常に理想的な活用例ですね。SE構法と環境設計の相乗効果を体現されていると感じました。

羽柴社長:

 ありがとうございます。私たちとしても、これからの住宅は「総合体験」として提供していく必要があると思っています。構造が強くて、快適で、かっこいい。全てのバランスを高水準で維持しなければ、簡単に他社に模倣されてしまいます。

前田(哲):

 最後に、全国のSE構法登録施工店様へメッセージをいただけますか?

羽柴社長:

 私たちはエヌ・シー・エヌさんの支援を受けて、パッシブデザインや経営戦略の在り方を学び、成長することができました。この学びを、ぜひ多くの施工店の皆様にも共有していきたいです。「設計力=サービス力」という考え方を持って、自社の価値を再構築していくことが、これからの時代に必要だと信じています。

前田(哲):

 貴重なお話をありがとうございました。